脂肪酸メチルエステル(バイオジーゼル)の実験          2011 11/5



 食用油やその廃油、パーム油などの植物性油脂を原料として、そのグリセリン部分をメチル基で置き換えた バイオジーゼル燃料が作られている。
  石油・石炭などの化石燃料と比べ、バイオジーゼル、バイオエタノール、ヤシ殻炭などの 純植物性燃料は、100%太陽光からのエネルギーを受けて酸素を放出するので、京都議定書による環境税(CO2排出税)がかからないという、大きなメリットがある。(ヨーロッパや日本は参加している。米国、中国などは加入していない)
  油脂は そのままでは、燃料噴射ポンプやエンジン内部の目詰まり、焼き付きなどの原因となるが、それをメチル化して精製したものは、通常の軽油に混ぜられて使用されている。 ヨーロッパと日本では、この脂肪酸メチルをバイオジーゼルと定義し、日本では 実際に販売される軽油には5%までの混合率、と定められている。ジーゼル機器やボイラーの燃料としては、100%で使っても何ら問題が無い。
  (* インドネシアのバス、トラックなどではメチル化しない油脂のままジーゼルエンジンの燃料として用いられている。)

  この、油脂のメチルエステル化は、アルカリ触媒を用いて、ほとんど発熱も吸熱も無く 割合簡単に起こるので、個人や小規模グループレベルから 近年急速に普及しつつある。(今のところ、主な原料は 輸入パーム油。純度95%程度) ただし、アルカリを除去するための水洗の問題があるので、製造方法が、苛性アルカリ法から 水洗不要の CaO触媒、無触媒法へと改良されてきている。



  1. 苛性アルカリ触媒法:


  メタノールに苛性ソーダ(NaOH)を飽和させた溶液(NaOHはメタノールに溶けにくい)に、同量のメタノールを加えた液 11mlと、食用油の キャノーラ油 89mlを 分液ロートに入れて、常温で10〜20分振とうすると、簡単に溶液は混じり 黄色の透明な液になってメチル化される。振とう後 しばらく放置すると、下にグリセリン(かなり粘い液)が沈降し、メチルエステルとの2液に分離する。
  下層のグリセリンを捨て、この上層を水洗すると、水層に 遊離脂肪酸をはじめ、NaOH、石鹸、メタノールが集まるのでこれを除く。 できたメチルエステルは、乾燥、ろ過して精製する。 充分脱水した油脂と 無水メタノールの当量を混ぜ、極力NaOHの量を少なくし、充分時間をかけて振とうすることが 収率UPの秘訣となる。
  実際のところ、水洗を2〜3回行なったが、加水分解してできた遊離脂肪酸をはじめとする固体の沈降物の除去が難しく、収率は90%程度。純度は不明で かなりの未反応の油脂が混じっていると思われる。
  因みに、水酸化カリウム(KOH)は メタノールによく溶けるが、軟石鹸が短時間に生成して分離不可能になるので使用しないほうがよい。



  * キャノーラ油の脂肪酸の割合による計算:

  キャノーラ油は、通常の菜種油に40%含まれるエルシン酸(採りすぎると有害)を無くした品種の菜種油の一種であり、不飽和脂肪酸の割合が高く 低融点である。
  脂肪酸の含有割合は、
    オレイン酸(C1733COOH、282.5、mp 16℃、bp 195℃、二重結合=1個) 60%、
    リノール酸(C1731COOH、280.5、=2個) 23%、
    αリノレン酸(C1729COOH、278.4、mp −5℃、bp 229℃、=3個) 10%、 
    パルミチン酸(C1531COOH、256.5、mp 63℃、bp 352℃、飽和) 5%、
    ステアリン酸(C1735COOH、284.5、mp 70℃、bp 376℃分、飽和) 2%
であり、平均分子量は 277で、 1/3グリセリン +30.7、 水 −18 より、 キャノーラ油の平均分子量は 約290 となる。 密度ρは、0.91(25℃)。

  メタノール(CH3OH、32、ρ0.792)、 1/3グリセリン(C3H5(OH)3、92/3≒30、ρ1.26) より、
  トータル100mlの混合比は、  キャノーラ油 89ml + メタノール 11ml = (メチルエステル) + グリセリン 6.9ml
の容量比となる。



  2. CaO触媒法:


  触媒にCaO(酸化カルシウム)を用いると、CaO自身が水や油に溶解せず、その石鹸(カルシウム石鹸)も不溶性であることから、メチル化後の水洗が不要で、残渣をろ過するだけで分離が完全にできる。 (その後は、100℃以上に加熱して、未反応のメタノール等を蒸発させる必要がある。) ただし、苛性アルカリ触媒に比べ反応は遅く、長時間の強い攪拌や、60〜80℃程度の加温が必要となる。
  酸化カルシウムは、通常の生石灰では表面積が小さいので反応せず、一度 水で消化して消石灰にしたものを600℃以上でV焼(かしょう)して、微粉末状のCaOとする必要がある。実験では、大理石を塩酸に溶かし 水酸化ナトリウムを加えて 水酸化カルシウムを沈殿、ろ過し、この沈降水酸化カルシウムをるつぼで強熱して得た微粉末状の酸化カルシウムを用いた。
  また、CaOを加えるとき、1回目では油とメタノールに含まれている水分を吸収して効力を失うので、さらに2回目の添加を行なった。

  結果は良好で、脂肪酸メチル層と CaO+グリセリン層とがきれいに分離した。

      

  その他のメチル化の方法として、触媒を用いずに直接反応させる方法が考案されている。
  250〜350℃に加熱した油の容器の下から、過熱メタノール蒸気を吹き込み、上部からの反応蒸気を受け器のタンクに導くと、タンク内に 脂肪酸メチルとグリセリンが2層に分離する。未反応のメタノールは導く途中で分離する。
  この方法は、洗浄も ろ過、脱メタノール処理も不要で、最も単純であるが、高温を必要とし、作業に引火などの危険が伴う欠点がある。


    ** オイルの木の油:


  バイオ・ジーゼル燃料として収率の非常に高いオイルの木の実が、インドネシアで栽培されている。これは、(遺伝子操作ではない)品種改良・交配によって、実業家であると同時に植物学者でもある Y氏が独自に開発したもので、実全体の6割が油(絞りかすは35%)で、他のどの植物よりも多くの油を採ることができる。これは、かつて日本に紹介されたアフリカ産の木の実よりもはるかに多い。また、ヤシの木の寿命が7年で切って捨てるのに対し、この木は(交配前の木で比較して)200年はもつそうである。 彼が持っている20ヘクタールのテストプラントでは、7ヶ月ごとに収穫し、その収量は ジャトロファ(1トン/ヘクタール・年)の比ではなく、1ヘクタール当たり 20トン200本の木、100kg/木1本、1年で、 しかも密生させないで 他の木も植えることができる)もの油が採取できる。 Y氏はY州に広大な土地を持っていて、この事業を拡大していく予定。

  この実を絞って作られる油には、二重結合が3つも入った不飽和脂肪酸の αエレオ・ステアリン酸が50%も含まれるのが特徴で、融点が低く寒冷地に向き、またハイカロリーである。
  このオイルの木は、温暖な地域でしか生育せず、日本では沖縄のみ可能。 苗の形で輸出可。

  これが大量に生産されると、(先ほどの)CO2排出に伴う税がかからないので、かなりの部分が石油に取って代わることになる。また、この実を絞った残りかすを炭にしたものも多量に出るので、油と同じ理由で税がかからないので燃料や製鉄に混ぜるなどの経費節減ができる。(石油メジャーからの妨害が入らなければ・・・)


  cf. 石鹸などの原料となる通常のヤシ油(パーム油)は、飽和脂肪酸のパルミチン酸50%、ステアリン酸45%が主成分で、高融点(60〜70℃)であり、常温では固体である。
     また、インドネシアのバスには、全く別種のジャラックという食用に向かない豆の油がそのまま使われている。
     バイオエタノールの生産が盛んなブラジルでは、メタノールと全く同様にエチルエステル化したバイオジーゼル燃料が生産されている。


    






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